キリストへの時間 2005年2月27日放送    キリストへの時間宛のメールはこちらのフォームから送信ください

山下正雄(ラジオ牧師)

山下正雄(ラジオ牧師)

メッセージ: 「信仰と和解」

 おはようございます。山下正雄です。

 思いもかけない家族の再会…それはどこかのテレビ番組に出てきそうな場面です。何十年も生き別れのまま、互いに生死も分からぬままに過ごしてきた日々。相手の消息をわずかな手がかりから知ろうと苦労を重ねてきた者たちにとっては、生き別れた親族との再会ほど感動的なものはありません。

 しかし、もし、その生き別れの原因が、家族の誰かの悪意にあるのだとしたら、その家族の再会は必ずしもハッピーエンドではないかもしれません。悪意によって自分を見捨てた家族と一体誰が喜んで会うことなどできるでしょうか。それこそ、今までの辛い思いが一気に爆発して、血みどろの再会になるかもしれません。

 聖書の中にはそんな悲しい別れ方をした家族の再会の話が出ています。

 ヨセフは兄たちの嫉妬心から、エジプトに売り飛ばされてしまいます。エジプトで過ごした日々は決して楽ではありませんでした。せっかく主人から得た信頼も、おもわぬ冤罪のせいですっかり失われてしまいます。獄中で知り合った仲間も、いざ、自分が釈放されると、かつての仲間のことなど思い出しもしなくなります。獄中でヨセフが与えた恩も、もうすっかり忘れ去られてしまいました。何もかもがめちゃくちゃな人生です。

 しかし、やっとのことで牢屋から出るチャンスを得たヨセフにもようやく幸せの兆しが見えて来ました。今やエジプト王の夢を解き明かしたことでヨセフはエジプトの支配をエジプト王から託されます。しかし、いくら権力を握ったからといって、かつての家族を忘れることは出来なかったでしょう。

 そのとき、その地を襲った飢饉のために、食料豊かなエジプトにヨセフの兄弟は訪ねて来ます。人間の目から見れば、正に偶然の再会です。ヨセフにしてみれば、ひどい仕打ちをした兄たちに復讐するチャンスです。今や誰がどう見てもヨセフの立場の方が兄たちよりもずっと上です。経済力でも、権力でも、ヨセフのほうが優位です。兄たちに仕返しがしたければ、いくらでも出来たはずです。

 しかし、ヨセフは偶然とも思える兄たちとの再会を、復讐の時とはしませんでした。むしろこの機会を信仰をもって受け止め、和解の時としました。なぜでしょうか。一つにはヨセフは兄たちのその後の気持ちを知ったからでした。ヨセフにひどい仕打ちをした後の兄たちの心には罪を悔やむ苦しみがあったからです。けれども、気持ちが変わったのは兄たちばかりではありませんでした。ヨセフもこの十数年の歩みの中で、自分を十分に反省していたからです。なぜなら、そもそも兄たちの嫉妬を招き、あのような行動に兄たちを駆り立てたのは、自分自身のうちにも落ち度があったことをヨセフも感じていたからです。

 しかし、何よりも大きな役割を果たしたのは、ヨセフが温めてきた信仰に立つものの見方です。ヨセフは再会した兄たちにこう言いました。

 「命を救うために、神がわたしをあなたたちより先にお遣わしになったのです。…神がわたしをあなたたちより先にお遣わしになったのは、この国にあなたたちの残りの者を与え、あなたたちを生き永らえさせて、大いなる救いに至らせるためです。わたしをここへ遣わしたのは、あなたたちではなく、神です」

 自分の人生の苦しみを他人のせいにし、恨みつらみを言うことは簡単です。しかし、その苦しい人生の中に神のくすしい導きを読み取り、そこに積極的な意味を見出す人にとっては、もはや人生は恨みを晴らす場ではありません。むしろ人を赦し、受け入れ、和解する場となるのです。神のくすしい導きを信じる信仰だけが人生をもっと豊かに見る目を与えるのです。

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