ウジヤとヤラベアム二世の長い統治のあいだ、ちょっと二つの王国を離れて、遠いニネベの町まで旅行してみましょう。
ニネベは、ユダから800キロほど離れていました。それは当時、いちばん大きな国であったアッスリヤの首都でした。大へん立派で裕福な町で、すばらしい宮殿や神殿がいっぱいありました。しかし異教の町ではあり、非常に悪い町でもありました。
ヤラベアム二世のとき、主の預言者でヨナという人が、イスラエルにいました。主は、ヨナに語り、ニネベの町にいって、そこの民に、もしその悪を離れなければ、神さまが町をこわされる、と告げるように命じられました。
ところがヨナは、主の預言者でありながら、神さまに従いたくありませんでした。砂漠をこえてニネベへの長い旅にでかけるかわりに、ヨナは、神さまから逃げるため、全然反対の方向に向かいました。
彼は、海岸にあるヨッパへ行きました。ヨッパで、スペインのタルシシに行く船を見つけました。彼は船賃をはらって、船にのりこみました。神さまから逃げて、うんと遠くへ行くのです。
しかし、ヨナは神さまから逃げられません。神さまはどこにでもおられます。
ヨナは船底に行き、横になり、ぐっすりねむりました。水夫たちは、なわをゆるめ、帆をあげました。帆は風を受けてふくらみ、船はなめらかにヨッパの港から海にでました。
神さまは、ヨナがいうことをきかないのを見ておられました。神さまは、大風を吹かせられました。青空は、黒い雲でおおわれ、風は激しく吹き始めました。大きな波のため、船は大揺れにゆれます。大波のてっぺんまで船がもち上げられたかと思うと、次の瞬間、目の回るような深みにおとされてゆきます。大波が甲版をあらいます。
水夫たちは、おそろしさにおびえました。船を軽くするため、積荷も全部海に投げこみました。自分たちの神々に助けを求めました。
ヨナは船底でぐっすり眠っていました。身近にせまっている危険にまったく無関心で、眠りこけているヨナを、船長が見つけました。船長は、ヨナをゆりおこし、「あなたはどうして眠っているのか。起きて、あなたの神に呼ばわりなさい。神があるいは、われわれをかえりみて、たすけてくださるだろう。」ときつくいいました。
「だれかが悪いことをして、その神を怒らせているに違いない」と、水夫たちはお互いにいいはじめました。「このわざわいがわれわれに臨んだのは、だれのせいか知るために、さあ、くじを引いてみよう。」
水夫たちがくじを引くと、くじはヨナにあたりました。おびえる水夫たちは、彼のまわりに集まり、「あなたが何をしてあなたの神を怒らせ、このおそろしいあらしがのぞんだのか、話しなさい」といいました。
ヨナは、「わたしはヘブルびとです。わたしの神は海と陸とをお造りになった神です」といいました。これを聞いて、水夫たちは非常に恐れました。ヨナは、自分がニネベに行って、そこの人々に罪を指摘するのがいやなので、神に従わないで逃げていることを、話しました。
ヨナ自身、自分がどんなに悪いことをしているのか、気づいてきました。自分の不従順のために神さまがこの嵐をおくっておられることが、わかりました。
「あなたは、なんということをしてくれたのか。われわれのために海が静まるには、どうしたらよかろうか」と水夫たちは聞きました。
ヨナは、神さまが自分だけをこらしめるために、嵐をおくられたことを、知っていました。そこで、「わたしを海に投げ入れなさい。そうしたら海は静まるでしょう。この激しい暴風は、わたしだけをこらしめるためのものです」といいました。預言者は、神さまが自分を溺れさせると思いましたが、自分が海に投げ入れられれば、神さまは水夫たちを助けられます。神さまに不従順なために死ななければならないのは自分だけです。水夫たちは、ヨナのいうとおりにしたくありませんでした。力いっぱいこいで、船を岸につけようとしました。
しかし、むだでした。嵐は、ますますひどくなるばかりです。波はますます高くなり、船にぶつかり、こぎ手も海に吸い込まれそうになります。水夫たちは、この暴風の中で何をしてもむだなことが、わかりました。ヨナのいうとおりにしないと、みな溺れてしまうことに気づきました。彼らはまじめな人たちでした。そして、いっしょになって、主に、「主よ、どうぞ、この人を投げ入れることをわれわれのせいにしないでください。主よ、これはみ心に従ってなされたことです。」と叫びました。
それから、彼らはヨナを荒れ狂う海に投げ入れました。すると、海はただちに静まりました。人々は、神さまがヨナをこらしめるために嵐をおくられたことを、知りました。彼らは神さまを信じ、いけにえをささげ、一生神さまを礼拝する、と約束しました。
しかし、ヨナはどうなったことでしょう。下へ、下へ、下へとヨナは沈みました。波は彼の上におおいかぶさり、頭や首のまわりに海草がからんできました。神さまは、非常に大きな魚を彼の側にこさせられました。この大魚は口をあけ、溺死寸前のヨナをのみこみました。この大魚の腹の中で、ヨナは安全でした。十分な空気もあります。
ヨナは三日三晩、大魚の中にいました。彼は十分に考えることができました。いのちを救ってくださった神さまに対する感謝にあふれ、さかなのおなかの中にいるあいだに、ヨナは大へん美しい感謝の祈りをつくりました。3日後に、主は魚に語りかけられたので、魚はヨナを陸地に吐きだしました。
主のことばはふたたびヨナに臨み、ニネベに行って神の警告を伝えるよう、ヨナはおおせつかりました。今度は、ヨナもすぐに従いました。彼は長い長い旅にでました。ろばか、らくだで旅したのでしょう。何百キロもある長い砂漠の旅行でした。何日もかかったことでしょう。
ようやく、遠い東の国アッスリヤのすばらしい町ニネベにつきました。彼は町の道路を歩き、歩きながら、大声で、「40日を経たらニネベは滅びる。40日を経たらニネベは滅びる」と叫びました。人々はみな、このふしぎなメッセージに耳を傾け、「あの人はだれでしょう」、「何をいっているのですか」とたずねあいました。
だれかが、「あの人は、自分は世界をつくった神の預言者だといっています。その神が彼をここにつかわし、この町が悪のために40日たてば滅びる、といわせているのです」とこたえました。
恐ろしい罰が町にくだることを聞いて、人々は、恐れおののきました。「どうしたらよいのでしょう。どうしたらよいのでしょう」とうろたえました。彼らは神さまを信じました。断食を布告し、町中の人が食を断ちました。また人々は、上等な絹の服を脱いで、荒布を着ました。金持も、貧乏人も、偉い人も、名もしれない人も、荒布を着ました。
ニネベの王も、ヨナのいうことを聞き、王座を立って、うつくしい王の衣服をぬぎ、荒布をまとい、金の王座のかわりに、灰の中にすわりました。王はニネベ中にそのことを布告させ、町角に次のようなポスターを貼らせました。人も獣も牛も羊もみな、何も味わってはならない、物を食い、水を飲んではならない。人も獣も荒布をまとい、ひたすら神に呼ばわり、おのおのその悪い道およびその手にある強暴を離れよ。あるいは神はみこころをかえ、その激しい怒りをやめて、われわれを滅ぼさないかもしれない。だれがそれを知るであろう。
ニネベの人々が、悪を離れるのを見て、神さまは、わざわいをくだされませんでした。町は滅ぼされませんでした。悔い改めと祈りによって、町は救われたのです。
ヨナは、自分が町はすっかり滅ぼされるといったのに、神さまがニネベの人をあわれまれたのを見て、大そう不満でした。彼はだれももう自分のいうことを信じないと思いました。ヨナは、神さまに町を滅ぼして欲しかったのです。そこで神さまに、「主よ、わたしがまだ国におりましたとき、このことを申したではありませんか。それでこそわたしは、急いでタルシシにのがれようとしたのです。なぜなら、わたしはあなたが恵み深い神、あわれみあり、怒ることおそく、いつくしみ豊かで、災いを思いかえされることを知っていたからです。町が滅ぼされるとわたしがいったあとで、あなたがここの人々をゆるされるのなら、わたしは生きるよりも死ぬほうがましです」とさえ祈りました。
ヨナは町から出て、暑い太陽の光をさけるため、木の枝で小屋をつくりました。そしてその下にすわって、主が自分の祈りにこたえ、町を滅ぼされるかを見ようとしました。
神さまは、ヨナの小屋にいい日陰となるように、早くのびる植物を地面から生えださせられました。日がとてもあついので、ヨナはこの大きな植物の木かげを、とても喜びました。
翌日、神さまは、この植物の茎を食べてしまう虫をおくられました。それで植物は枯れ、ヨナの小屋はまた日かげがなくなりました。太陽があまりかんかんと照りつけるので、預言者は気が遠くなり、死にたいと思いました。
主はヨナに、「あなたは一夜に生じて、一夜に滅びたこの植木を惜しんでいる。ましてわたしは12万人あまりの、右左をわきまえない人々のいるこの大きな町ニネベを、惜しまないでいられようか」といわれました。
こうして神さまは、ヨナに、あわれみを教えられたのです。